今私は小さな魚だけれど

ちょっぴり非日常な音楽を紹介するブログです

【雑記】『ウイルスは悪者か―お侍先生のウイルス学講義』を読みました

コロナウイルスの影響下、ずっと家にいると気が滅入ってくるので、散歩をすることを日課にしました。そんな中で本屋(人が多いところ立ち寄ってる🙅‍♂️)で偶然見かけた本がこれです。

ウイルスは悪者か―お侍先生のウイルス学講義

ウイルスは悪者か―お侍先生のウイルス学講義

メルカリに出品しました

この本の中から、気になった箇所をメモしていきます。一般的な書評はこれらのサイトを読んでください。

この記事では触れていませんが、「ウイルスは生物の定義を部分的に満たしていて曖昧な存在だ」という話、フィールドワークの話、「ウイルスが先か生物が先かはっきりしない」「ウイルス由来のRNAが重要な役割を果たしている場合がある(ヒトの胎盤が発現するときなど)」などの話も面白いです。

ヒトのウイルスは変異の速度が速い

「ヒトとブタと鳥とー抗原変異の速度の違い(P301~)」という章では、「ウイルスの抗原の変化で比較すると、ヒトのものは他の動物のものより変異の速度が速い。これはヒトの選択圧が強いからだろう」という趣旨で述べられています。

これ自体も面白いのですが、次の図がこれまた面白い。「進化系統樹で見ると、ヒトのウイルスは一直線的に変異している」という図です。

 ヒトのウイルスの進化が一直線になるのは、抗体の選択圧を受けて変異ウイルスが生まれてくるなかで、そのうち一種類のウイルスだけが選択されて優位になり、次の流行株になることを示している。流行のスピードが速く、あっという間に地球規模で拡がってしまうことと、同じ抗原性のワクチンを世界中で使っていることが原因と考えられる。

 対して鳥のウイルスで見られる多様な分岐は、地域差によるものだ。海に隔てられたガラパゴス諸島で、近縁種がそれぞれ独自に進化を遂げたように、宿主である鳥が行き交う地域の違いで、ウイルスも独自の進化を遂げていると考えられるのである。

同じように「いわゆるグローバル化が技術や文化に与える影響」も同じようなものがあるんじゃないかと思います。例えば「未来に先回りする思考法」という本に「GoogleAppleなどの巨大なテック企業は同じような未来を予想して、誰が次の技術を先に生み出せるか競っている」というような趣旨のことが書かれていて、実際に私もそうだと思っています。それは「一種類の製品だけが選択されて優位になること(例えばスマートフォン分野のiPhoneなど)」が一因なんじゃないかと思います。

技術や文化の分野で同じような仮説を立てて研究すると面白そうですね。例えば「ボーカルのある曲は言語の縛りで各国独自のミームを残すが、インスト曲の文化(クラブミュージックなど?)は世界中に流行がすぐに伝わり一方向的に進化する」とか「配布方法によって音楽ジャンルの進化はどう変わるのか」とか。DNAやRNAがあるわけじゃないので、どう計測するのか難しそうですが…。

寄生体であるウイルスが、なぜ宿主の命を奪うのか(P81)

「宿主をすぐ殺してしまうとウイルスは生き残ることができないのに、なぜエボラウイルスのように致死性の高いウイルスが存在するのか」という説明。

  • 実際に長期的に共生関係を育んできた「自然宿主」がいる
  • 「宿主の壁」を乗り越えて偶発的に感染に成功することもある
  • ごく稀にb-2からb-1(下図)に遷移することもあり、その際に毒性が強いウイルスが生まれることもある

A型インフルエンザを例に、次のように説明されています。

 カモとニワトリは、同じ鳥類であっても種は異なり、そこには宿主の壁が存在する。カモの体内環境に適応したウイルスは、ニワトリへの感染に成功しても、ニワトリの間で効率よく増殖することができない。このとき、ニワトリに対して病原性を示すこともなく(b-2のケース)、ウイルスはニワトリにとって少なくとも無害な存在である。

 だが、ニワトリは鶏舎で非常に密集して飼われているケースが多い。ウイルスは非効率ながらもニワトリの集団のなかで強引な感染を繰り返すうち、徐々にニワトリの体内環境に適応していく。

 ウイルスにとっては、新たに感染したニワトリの体内が選択圧となり、ニワトリの体内環境で効率よく増えられるウイルスが生まれてくる。宿主の体内に存在するウイルスの形質は多様で、「準種」を形成している。そのなかから、宿主の体内環境に適合した変異をたまたま持っていたウイルスが選択され優勢になる。その延長線上に、宿主であるニワトリを殺してまで自身を効率よく増殖させるウイルスが出現してくるのである。

無理やり技術・文化の分野に射影すると、「コミュニティ(国家や企業?)は思想(ミーム?)や技術とある意味共生している。コミュニティを崩壊させる思想は、インターネットで知識が(密集した鶏舎のように)無理やり他人に伝播できるようになった結果、生まれやすくなっている」ってことでしょうか。そういうことって実際にあるのでしょうか?(私は「140字の戦争」のイスラム過激派の話を思い出しましたが)

「抗原シフト(抗原不連続変異)」について

徐々に抗原性が変化する「抗原ドリフト(抗原連続変異)」の他に、「抗原シフト(抗原不連続変異)」と呼ばれる変異もあるそうです。P294あたりから説明があります。

 ある宿主個体は、同時に複数のインフルエンザウイルスに感染することがありうる。

 ウイルスが宿主の個体内で感染・増殖する際、ウイルスを構成するタンパク質や自身のRNAのコピーを宿主細胞につくらせ、それらの部品をひとつに集めて子孫のウイルス粒子が形成される。

 このウイルス粒子形成の際、宿主個体が同時に複数のインフルエンザウイルスに感染していると、別個のウイルスに由来するRNA分節が混ざり合うことがある。ウイルスXに由来する分節とウイルスYに由来する分節が、ランダムに組み合わされる可能性があるのだ。この、遺伝子分節の組み合わせ変換を「遺伝子再集合」という。

抗原ドリフトは「フルモデルチェンジ」のようなものであり、過去の免疫が役に立たなくなる。ヒト由来・鳥由来のインフルエンザウイルス両方に起こりやすいらしい。

技術や文化の分野でも同じ用に「ジャンル内の発展」と「別分野の発想を組み合わせること」の2つがありそうで、特に後者がイノベーションに重要って言われてそうですね。ウイルス分野のこれらの違いの研究結果で他分野を類推してみるのも面白いかもしれませんね。もしかすると「複数分野に長けた会社はイノベーションを起こしやすい」ってことも言えるのでしょうか?