偶然見かけて面白そうだったので読みました。おたく文化の歴史と成立を知ることで、今後の電波ソング老人会で役に立つ知見が得られるかもしれません。
- 作者: 吉本たいまつ
- 出版社/メーカー: NTT出版
- 発売日: 2009/02/09
- メディア: 単行本
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あとは自分用のメモです。
「サーコン」と「ファニッシュ」の区分
私は初めて知った概念はこれです。それぞれこのように定義されています。
- サーコン: Serious & Constructiveの略。対象となる文化をきちんと研究したり、対象となる文化の作品を創作したりする、いわゆる『真面目』な態度。主体になるのはアマチュアだが、アカデミックな態度に近い。
- ファニッシュ: サーコンが真面目に研究したり創作したりするのに対し、ファニッシュは対象をきっかけに大勢で楽しんだり、騒いだりすることが目的
最初はSFのコミュニティの話で、だんだん活字SFの「サーコン」的な態度のコミュニティが、拡大するに従って「ファニッシュ」な人も増えて浸透するに従って「世間に拡大しつつ拡散していった」そうです。ネット上ではこのような文章もありました。
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梅原講演を半分聞いたところで、岡田斗司夫氏がやってきたのでふたたび控え室であいさつ。SFセミナーとゼネプロっていうと、15年前にはファンダムの両極っていうか、ほとんど対立概念だったんですけどね。サーコン(SERious&CONstructive)対ファニッシュ(Fanish)、真面目系vsお笑い系で。TOKON VIII 対 DAICON IIIともいう(笑)
そのセミナーに岡田さんがゲストで来て、TOKON VIIIの実行委員長だかをつとめた大宮さんと対談するんだから時代の変化とはおそろしい。おまけにアニメの企画まであるしなあ(笑)
もっとも、大森の所属グループはサーコン系とはいっても関西なので、ゼネプロとは人脈的にはけっこう近い関係だったりして、あんまり違和感はないっす。
大宮×岡田は「オウムとSF的想像力」とかそういうありがちなテーマで、思ったよりは(あれでも)噛み合っていた気がする。
SFファンダムの楽しみ方
後のおたくコミュニティの基になるような「楽しみ方」も成立していったそうです。P37~ピックアップして引用するとこんな感じ。
- フィクションの世界に高い優先度を置く
- 対象ジャンルだけでなく、関連領域も意欲的に調べる
- 直接会って騒いで楽しむ
- 定期的なイベントを開く
- ジャンルに対して献身的になる
- 対象を絶対視せず、対象を主体的・積極的に読み替えていく
今の時代でもそれほど違和感ありません。ただ2については、現代のような情報過多な時代だと少し変わっているかもしれませんね。
コミックマーケットの成立
P87~ 「それまでに起こった様々な文化の要素を受け継いでい」て、それを見ていくことでコミケ成長の要因を分析しようとしています。
- ベースに反商業主義がある。既存の商業マンガの枠組みとは違った、等身大の作品、「読ませる」作品を求める。
- サークル参加者(同人誌を売る側)、一般参加者(同人誌を買う側)、すべての参加者の立場が平等で、上下関係・権力関係が希薄。
- どのような活動内容のサークルであっても拒絶することなく、門戸を開放していく。
- サークル同士、売り手と買い手の関係や連携を重視する。
- マンガやアニメだけでなく、関連する領域を総合的に扱う。
- 大規模な祝祭空間とする。自分たちがよいと思っているコンテンツを自分たちで盛り上げていって楽しむ場とする。
①〜③は全共闘運動からカウンターカルチャー性を受け継いでいるそうです。上の価値観を見ると、スティーブン・レヴィの書いたハッカー文化的なものも感じます。
またコミケは、ファニッシュ的な価値観やビジネス性も否定せずに門戸を開いていたことが拡大の要因になったそうです。余談ですが、初期のコミケは女性参加者が8割程度で、吾妻ひでおさんなどが活躍して「ロリコンブーム」が発端となって男性参加者が急増するようになったということにも触れられています。
DAICON FILMとマクロス
1970年代まではおたく文化は「広い意味でのサブカルチャーのなかのひとつ」だったのに対し、1980年代では『DAICONⅢのオープニングアニメ』と『マクロス』、そして「おたく」という言葉ができたことで「じぶんはおたくだ」と自己認識する人々が現れ、ジャンルが定着した、と説明されています。
そんな中、DAICONⅢオープニングアニメは「これだ!」というユリイカ感に満ちていた。オープニングアニメは、そうした漠然とした希望を、レベルの高いビジュアルで、極めて明確に示してしまった。男性たちが欲しかったものは、美少女、メカ、パロディ、戦闘シーン、動きの快楽だったのだ。その後『マクロス』が放送されることによって、全国で「何が欲しかったか」がはっきりと理解される。オープニングアニメとマクロスは熱狂をもって迎えられ、彼らが欲しがる要素はさらに強く求められるようになる。さらにDAICONⅣのオープニングアニメでは、それに性的要素が加わる。
ただ、これも個人的にはちょっと著者個人の経験に寄りすぎているんじゃないか、とも思ってしまいます。
DAICON FILM(ダイコンフィルム)は、1981年から1985年にかけて活動したアニメ・特撮を中心とする自主映画の同人制作集団。アニメ制作会社ガイナックスの母体となった。
後ろめたさとの戦い
「元々子供向け文化を卒業せず楽しんでいる」ことから、やはりジャンルの成立当初から葛藤はあったようです。
まずは二月に公開された『うる星やつら2 ビューティフル・ドリーマー』(押井守監督)である。この作品では延々と繰り返される文化祭の前日が描かれる。お祭り騒ぎで毎日が楽しいのだが、そのうち誰かがおかしいことに気づく。時間がループしていたのだ。真相を暴こうとすると、世界そのものが彼らの試みを打ち砕こうとする。登場人物たちはいつしか、この世界は誰かの夢だということに気づく。ずっと、ずっとこのままでいたい、ずっと楽しい瞬間を味わい続けていたいという。
「これは当時のおたくの心性を非常に鮮明に表わしていた」とのことですが、良くも悪くも全然現代でも変わりませんねw